死角
彼女は、彼女の眼では見えぬ一点を見て、凝視している。
私には彼女が見ているものがわかる。
その一点こそ、彼女自身、彼女の身体であり、
彼女の顔であり、彼女の眼である。
この死角ともいえるものは、
見つめている彼女の視線が彼女自身に隠されてしまう、
彼女自身の本質的な隠れ場に位置している。
彼女の視線からその見つめているものまで、
見つめている限り、
彼女自身は見通すことはできない、
1つの平面が立ちはだかっている。
それは現実の彼女自身の前に立ちはだかり、
その表面の一歩手前のところで、
私を観察する彼女を、私がそこから彼女自身を観察する、
その場所にやってくる。
この平面こそ、
私と彼女という表象とを結び付けてくれるものにほかならない。
人は自分自身を見つめることは、難しい。
一歩引いて、客観的に自分自身を見てみるとは、こういうことではないだろうか。